広戸風

広戸風とは、岡山県北東部にある那岐山(1240m)の南側(奈義町、勝北町が中心)の狭い範囲に吹く暴風のことです。


どういう時におきるか?

台風が四国、紀伊半島の南を北東に進む時に起きやすいですが、兵庫県南部を通過している時や関東沖を北上している時でも起きることがあります。

低気圧が通過するときでも起きるという文献もありますが、低気圧での事例を私は確認したことがないです。

発生頻度としては、被害の出るような暴風は年に0〜2回くらい、軽いものはもう少し起きているかもしれませんが、よくわかりません。

なぜ暴風になるか?(一般論)

那岐山の北側には、千代川が北の方へ流れていますが、その谷が北に開いたV字状をしていて、北風の時には南の方ほど風が集まり強くなります。その「V」の付け根のところが那岐山になります。

それだけだと、「暴風の帯」は那岐山からそのまま上空を流れるだけですが、いろいろな気象条件(気温、風の強さなど)が重なるとその「暴風の帯」が吹き降りて地上に達し、被害をもたらすようになります。

弱い北風では、「暴風の帯」は吹き降りてこないようです。


広戸風発生時の那岐山周辺での流れ。
北〜北東の風が、谷で収束される。


横からみた断面図。
上層の風が吹き降りてきて地表付近で収束する。(跳ね水現象という。)

:参考文献:
岡山県の気象(百周年記念)岡山地方気象台
岡山のお天気佐橋 謙山陽新聞社
ローカル気象学浅井 冨雄東京大学出版会

広戸風の実例

1995年 9月16日から17日にかけての台風12号

関東沖を台風12号が通過した時に、広戸風が起きたようです。 この台風は「戦後最大級」と騒がれるほど大きいものではありましたが、1000kmも遠く離れていたのに強い風が吹きました。 岡山県北東部(注1)のみに暴風警報が出ました。
私は16日の夜に津山市の東の端のところにいましたが、風が強く、上空ではごうごうと風が吹きぬける音がしていました。
アメダス観測記録では、この台風の通過時で最も広戸風が顕著だった17日3時に、

智頭(那岐山の北側)      西    6m/s
奈義(広戸風が最も顕著な地点) 北北東 13m/s
津山              北    5m/s

と、奈義では倍以上の風速がありました。
奈義では、最大瞬間風速で20〜30m/sほどになっていたと思われます。
風上の智頭では、関係のない方向から風が吹いています。

また、その前の16日23時には、

智頭(那岐山の北側)      南西   3m/s
奈義(広戸風が最も顕著な地点) 北   10m/s
津山              北    3m/s

と、智頭ではほぼ反対からの風が吹いています。
これは、広戸風がおろし風であるため、風上側では反流ともいうべき山からの風が吹いているとみることができます。

(注1)正確には「岡山県北部の東部」という予報区の二次細分地域で、勝田郡・英田郡の町村が含まれる。(津山市は含まれない。)
予報区ではあるが、事実上広戸風が起こりそうな時に注警報を発令するのみとなっている。

1997年 6月28日 台風 8号通過による広戸風

台風8号が九州北部から山陽沿岸を通過。その後岡山県南部から近畿地方へ移動する際に、広戸風がおきました。
勝北町役場では、48m/s(TV報道による)の風が記録されたとのことです。
津山測候所では、19.6m/sの最大瞬間風速です。
この台風の時に、全国の気象官署で最も大きい最大瞬間風速を記録した室戸岬でも、41.2m/sであり、おそらく全国で一番強い風が吹いた場所とみられます。
前日の進路予想では、この台風は山陰地方へ進む可能性が強かったので、広戸風はないと思っていましたが、南に進んできたために思わぬ暴風が吹きました。
進路予想がずれることで大変な違いが生じるところが、局地風の予測の難しさを物語っています。

ホームページに戻る