平成16年度・支部大会・医療講演会
演題:「変わりつつあるリウマチ治療」
講師:鳥取大学医学部付属病院整形外科・教授 豊島 良太
医学博士・専門分野
関節リウマチ・骨関節症・関節炎の臨床的基礎的研究
「変わりつつあるリウマチ治療」と題して、この30年間でどのように変わってきたのか、
現在一番よいと言われている治療法はどんなものかというお話をします。
・主に薬物治療と手術的治療についてですが、
リウマチ患者さんはそれぞれに病状が違うので患者さんに合わせた治療をしなければ
なりません。
・薬剤の選択はどうしたらよいか、
最近開発されたアラバと・レミケード(TNFαの抗体)の治療はどうなのか。
・もうひとつは手術についてですが、
手術のタイミングはいつがよいのか、手術を受けるにあたって医師から最低なにを
聞けばよいかを、お話させていただきます。
・リウマチの薬物治療の前に、
「リウマチはどうして起こるかについて」お話します。
・ひとつは遺伝的因子で、
リウマチを発症しやすい状態の方に、何らかの「ウイルス感染や環境因子」が加わって
「免疫異常」が起こった為に関節を中心に「炎症」が起こってくる、これがリウマチです
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ステロイドホルモンは、
昭和24年から英国で使われています。
薬効は、炎症に対しても免疫異常に対しても有効な薬剤で、日本では昭和30年に入ってから、
当初大量に使われましたが骨が薄くなるという副作用がある為に、使ってはならないという
風潮が広がりました。
しかし、現在では副作用に留意して適切な量を上手に使えば、有用であるということが
一般的な考え方です。
抗リウマチ剤は、
炎症には効かないが、免疫異常に効いて関節の炎症を和らげる薬であり、
抗リウマチ剤はステロイド剤とほぼ同じ重要な役割を果たしています。
痛み止めの消炎鎮痛剤は、
免疫異常を是正する効果は全くありません。関節の腫れや痛みに一時的に 効くという薬で、
抗リウマチ剤やステロイド剤に比べて果たす役割は小さいものです。
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抗リウマチ剤の歴史 | ![]() |
昭和40年頃に、注射用金剤のシオゾールが入ってきて、
昭和50年頃には、メタルカプターゼ・カルフエにール、
その後、内服用の金製剤のリドーラと・メタルカプターゼに似た薬でリマチル・
そして画期的な出来事は、昭和56年に英国でメソトレキセートがリウマチに非常に
有効であると論文が出て、昭和60年頃に日本に保険外診療で入ってきました。
そして、オークル・免疫抑制剤のプレデイニン・アザルフィジンが入ってきました。
2002年にメソトレキセートがリウマチ用に開発されて厚生労働省が認可した
リウマトレックスとして発売されました。
2003年にアラバと生物製剤がでました。
アラバについては、リウマトレックスと同じようDNA細胞の分裂を抑制して免疫抑制
させようとしう非常によく似た薬です。
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抗リウマチ剤の特徴 | ![]() |
抗リウマチ剤の特徴は何か、
・すべてが一定の期間服用したのちに、はじめて効果がでる薬です。
一定の服用期間は薬によって違いますが、どの薬も即効性はありません。
リウマイド因子やCRPを改善します。
・ 免疫異常を改善して次ぎに、その効果として炎症を抑制します。
・ そして効く人と効かない人が明瞭に区別されます。
・ ただ残念なことは、すべての薬で服用後にしか効く人と効かない人の区別ができないことです。
そしてどの薬もしばしば副作用がでます。
・ 中には元に戻らず死に至る重篤な副作用を発生することもあります。
長期間同じ薬を服用していると最初はよく効くが3年〜4年もたで効果が減弱すること
があります。
・これをエスケープ現象といい、その時点で薬物の変更をしなければなりません。
これらの薬をどのように組み合わせるか、
・ 昭和50年代までは、最初に痛み止めを使い、
・それで良くならない方にはシオゾールがペニシラミンを使い、
・最後にステロイドを使うといった
・弱い薬から強い薬に変えていく「ピラミット型」治療でした。
ところが昭和50年代半ば以降、特に60年代以降には、
・抗リウマチ剤の選択技が多数増えてきた為に、初めから強力な抗リウマチ剤を使い、
・良くなればその薬を減らしたり、弱い薬に変えていくという、
・「逆ピラミット型」に変わりました。
最初から協力な数種類の薬から始めて、
・良くなってくれば薬の量を減らそうという治療法と、
・1種類の抗リウマチ剤を使用し、副作用がでたり効果がなければ、
・すぐに他の抗リウマチ剤に変更していく治療法が海外の医師から提言されました。
・現在の治療法は基本的には、これらの考え方に基づいたものです。
免疫異常にも炎症にも効くステロイゾ剤、
・プレドニンを10〜20ミリグラム投与して効いたところで、
・シオゾールやメソトレキセートなど抗リウマチ剤を処方し、
・ステロイド剤を減らしつつ抗リウマチ剤の効果をまって良くしていこうという治療法です。
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薬剤の遍歴 | ![]() |
現在使われている抗リウマチ剤は、
まずリウマトレックスは副作用も強いけれど有効性が非常に高い内服薬です。
リドーラ・リマチル・アザルフィジンは、
有効性はリウマトレックスに比べて低いけれど副作用が軽いので、有用な薬です。
シオゾールは、
副作用もあるけれど有効性が勝っているので、古い薬ながら残っています。
注射ということが難点です。
メタルカプターゼは、
有効性もあるが服作用も強く、食間服用で患者さんに不便なので余りつかわれないように
なりました。
カルフェニールは、
副作用もないが有効性もありません。
オークル・プレデイニンも、
有効性が余り高くない為に多くの患者さんには使われていないようです
現在使いうる工リウマチ剤は、シオゾール・リドーラ・リマチル・アザルフィジン・
リウマチトレックス・そしてアラバと生物製剤です。
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リウマチ患者の症状の違い | ![]() ![]() |
リウマチは人によって症状や臨床経過が違います。
・治療をすれば症状が良くなり、そのまま症状が無くなる方が
10人に1人もしくは20人に2〜3人 の割合です。
・良くなったり、悪くなったりしなから、長い経過で徐々に
悪くなっていく方、急激に悪くなる一方の方、
この二つのタイプが8割〜9割です。
生物製剤の開発について |
生物製剤の開発の契機は何なのか、
これはリウマチの関節破壊に関する基礎的な研究学問が非常に進歩したということです。
具体的には、
まず免疫異常に関与する細胞は、直接関節を壊す細胞は何なのか、
それぞれの病態に関係する細胞は、
そして、一番重要なことはこれらの細胞間の機能の伝達を行う物質がわかってきたことです。
ある細胞が出て、
指令を発信し、別の細胞がその指令を受けて仕事をします。
そうして指令を伝達するタンパク質が分かってきました。
現在タンパク質をつくっている細胞質の中や、遺伝子に関わる細胞の中で、
タンパク質や核酸を作りなさいとか、作ってはいけません、
と言う情報を伝達する分子もほぼ解明されてきました。
開発されたその契機は、
機能伝達するタンパク質が非常によく分かってきたと言うことです。
このタンパク質のことを「サイドカイン」と言います。
いろいろな細胞が、免疫異常や、炎症の発現や、炎症の増強や、炎症の維持や、
関節破壊や、それぞれの役割分担をしているのです。
いろいろの細胞間の情報や機能発現の伝達は「サイドカイン」が行っています。
この「サイドカイン」という言葉は覚えてください。
サイドカインは、体の中で悪いことだけしている訳ではありません。
サイドカインがあるからこそ、人間は生きています。
いい役割も果たしますが、過剰に出ると炎症が起こってきます。
炎症を抑えるサイドカインより、炎症を促進するサイドカインが体の中に増えれば
炎症を起こします。
現在、いろいろなサイドカインに対する生物製剤が開発中ですが、一部は既に米国や、
英国では使 われています。
現在、日本で市販されている生物製剤は、
・TNFαと言うサイドカインを体の中から無くそうと言う薬です。
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抗TNFα抗体治療 |
TNFαに対する抗体がなぜ効くか、
TNFαは、炎症を起こそうと、指令するタンバク質ですが、抗体はこれにくっついて、
中和し機能を無くします。
・細胞にくっついたところで、タンパク質の力を無くしてしまう薬です
TNFαは、元々は腫瘍壊死因子と言いわれ、たくさんのバイキンや、ウイルスに対して
感染を防ごうと言う人間の体で、重要な役割を果しています。
炎症を起こすだけでなく、感染を防御する良い役目も担っています。
TNFαの抗体の治療成績ですが、
昨年7月に「薬名・レミケード」が発売されてから今年2月までの集計で、
1800例中1300例の調査票が回収されています。
(厚生労働省の指令で登録が義務づけられている)
今までの抗リウマチ剤より圧倒的にその有効性は高く90%の人が著効ないしは有効です。
10人中9人に確実に効きますが、やはり副作用も369例28.5%発症しています。
頭が痛い・熱がでた・発疹がでた・ほてりがでた・そして感染として結核や肺炎が
1800人中27人に起きています。
その他にタンバク質を体に点滴で入れますので、投与時に反応が0.2〜0.3%の頻度で起きます。
先生のご提言
絶対に効く薬はありません
絶対に副作用のない薬もありません。
生物学製剤の使用を希望される方は、必ず主治医に詳しくお聞きになってください。
重要なことは、自分の体の仲に古い結核や肺・腎・胆嚢などの感染病巣のある方は
要注意ということです。
平成16年5月15日 豊島 良太