<法期限後の同和対策事業について> |
初めに、平成14年3月に地域改善対策特定事業に係る国の財政上の特別措置に関する法律の一部を改正する法律、つまり地対財特法が法の期限を迎えるわけですが、法期限後の対応について片山知事へ基本的な考え方を幾つかお伺いしたいと思います。
健康で長生きがしたい。自分の希望する仕事について力いっぱい働き、安定した豊かな生活がしたい。一人一人が人間として大切にされる世の中でありたい。被差別部落に生まれた皆さんは、このような熱い願いを人間の権利として確立するために、長い歴史の中で血の出るようなたゆまない努力を続けてこられました。こうした皆さんの熱い思いの中で、昭和35年に同和対策審議会が設置され、昭和40年には同審議会から、「日本社会の歴史的発展の過程において形成された身分階層構造に基づく差別により、日本国民の一部の集団が経済的・社会的・文化的に低位の状態に置かれ、現代社会においてもなお著しく基本的人権を侵害され、特に近代社会の原理として何人にも保障されている市民的権利と自由を完全に保障されていないという最も深刻にして重大な社会問題である」と、時の佐藤内閣総理大臣に対して答申がなされました。
以後、この答申を受けて、昭和44年に同和対策事業特別措置法が10年の時限立法として制定施行されて以来、同法の3年間の延長、それに引き続き昭和57年に地域改善対策特別措置法が制定施行され、この法律が62年3月末をもって期限切れとなり、なお残された課題を解決するため、新時限立法として地域改善対策特別事業に係る国の財政上の特別措置に関する法律、つまり、先ほど申し上げました地対財特法が平成4年3月末を期限に制定施行され、さらに同法が5年間延長されました。さらに、平成9年に一部事業について5年間延長されることになり、現在を迎えております。
これらに基づく同和対策事業の推進によって、同和地区の住環境面の改善を初め、ハード面を中心としてある程度改善されてまいりました。しかし、現状を直視する限り、結婚問題を初め就職問題など、まだまだ同和問題の根本的な解決には至っていないと私は認識しておりますが、片山知事としては現状をどう認識しておられるのか、御所見をお伺いします。
これまで特別措置法には部落差別の解消は国民の責務であるという条文や条項が盛り込まれておりましたが、後半の地対財特法にはこのようなことが明記されていないため、差別事象が起きても効果的な対応ができないことが差別を温存してきた一つの要因であると認識しております。したがって、こうした状況を背景として差別事象は後を絶たず、昨年1年間だけで県下で26件もの差別事象が発生しております。確かに差別を見抜く力がついたことにより、差別事象を告発する件数がふえたことにもつながっていると思いますが、差別事象が依然多いという現実は事実であり、差別はもうなくなったという論者もかなり多くありますが、差別が見えなくなっただけであり、現実社会においては差別がまだまだ多く存在している現状を認識しておかなければならないと思います。
こうした現状認識のもとで、今の地対財特法では部落差別を解決する上で限界があると言われております。そこで、個別法が逐次整備されているものの、同和問題を根本的に解決する法律として部落解放基本法の制定を強く要求する草の根運動が展開されており、私どもも強く望んでいるところです。 鳥取県においても、こうした現状認識の中で同和対策事にを積極的に取り組まれてきたわけですが、平成14年3月の地対財特法の期限切れを目前とする中、まだまだ整備を必要とする事業があるものと思われますが、片山知事としては、法の期限後はこうした事業をどう対応されていかれるのか御所見をお伺いいたします。
また、ソフト事業についてはどう対応されていくのか、あわせてお伺いいたします。
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●知事答弁 |
同和対策事業についてですが、現時点での差別の現状、認識という御質問でしたが、私は、これまで長い間同和対策事業、同和対策の施策を推進してきまして、以前に比べますと随分意識が変わったと思います。住環境などの整備も随分進んだと思います。
しかし、しからば差別意識はなくなったかというと、決してそんなことはないと私は思います。やはり結婚の問題とかそういう時点になりますと、表面上隠れていたような差別意識がむっくり起き出してくる、そういうことはあると思います。また、この問題について私どもの調査を見ましても、年齢が高くなるに従って差別意識はいまだに強いという分析もできます。まだまだ差別、偏見がなくなっていないという認識を持っております。
現に、伊藤議員もお触れになられましたが、差別事象が後を絶たないという現実です。以前より少し差別のやり方が変わってきまして、非常に匿名性、巧妙で陰湿になっているという特徴が最近あります。こういう新しい事態にも対応し、また依然として残っている差別意識というものを、さらに我々は努力をして解消しなければならない。みんなが生き生きと自己の持っている能力や個性を遺憾なく発揮できる、そういう社会をつくっていかなければならないと思います。
いわゆる地対財特法の期限が到来しますけれども、それが到来した後の同和行政のあり方はどうかということですが、かねて申し上げておりますとおり、法律がなくなったら、その法律が目的としていた、対象としていた事象がなくなるというものではない。なくなればそれにこしたことはないと思います。法律がなくなる、それと平仄を合わせるようにこの世の中から差別や偏見がなくなるということであれば、これは最も理想的ですが、現実は必ずしもそうではないと思います。先ほど申し上げたとおりです。
だとすると、法律がなくなった後であっても、鳥取県において差別や偏見をなくすために必要とされる施策があれば、それは県として皆さんの合意をいただいた上でやっていかなければいけないと思います。それはソフト事業について当然であります。
現在、昨年実施した同和地区実態把握等調査を分析しております。なるべく早いうちに、その分析結果などをもとにして、法期限到来後の鳥取県の同和対策事業のあり方について案をお示しできればと思っております。
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<法期限後の同和対策事業について>bQ |
有田教育長にお伺いいたします。
教育の分野においても、かなりの同和対策事業がソフト面で取り組まれてまいりましたが、法の期限後についてはどう対応されるのか、お尋ねいたします。
特に私が心配しますのは、鳥取県進学奨励資金制度です。鳥取県の場合、同和対策審議会答申が出た昭和40年に、国の制度に先駆け鳥取県単独の制度として同和奨学金制度が創設され、その後、制度の中身も給付から貸与と改正されながら、平均所得が極めて低いという同和地区の実態の中、子供たちの高等学校を初めとし高等専門学校、短大、大学への進学意欲を随分高めてまいりました。今年度貸与を受けている高等学校及び高等専門学校の生徒さんは434人、短大・大学生が172人です。法の期限切れを目前とする中、現在貸与を受けている学生の皆さんを初め進学を控えた学生の皆さんは、制度が廃止になるのではないかと大きな不安を抱えた中での受験勉強であります。有田教育長として、万一法が切れたとしても進学奨励資金制度をこれまでどおり継続されていくのか、お伺いします。 また、学校現場における同和教育、加配教員、市町村の人権教育推進員の制度についてはどう対応されていくのか、考え方をお伺いします。 |
●有田教育長答弁 |
法期限後の同和教育行政への対応ですが、同和教育、人権尊重の教育は、法があるなしにかかわらず、教育上の課題があるから推進しているのであって、現行法期限後にあっても同様の考え方で取り組みたいと考えております。
とりわけ進学奨励資金制度の点にもお触れになりましたけれども、今までこの進学奨励資金制度の果たしてきた役割は非常に大きいものがあると考えております。とりわけ職業選択の自由に結びつく進学率の向上に果たした役割は大きいと思います。現在でもなお、大学進学率は同和地区内外の差が非常に大きいものがあります。法期限後も、この制度の存続に向けてぜひ国に働きかけたいと思っておりますし、また本県でも、引き続き有効策を検討していきたいと考えております。
次に、同和教育加配教員、あるいは市町村の人権教育推進員です。この両者とも、今まで果たされた役割は非常に大きいと認識をしております。特に加配教員につきましては、国の動きに十分注目しながら、引き続き働きかけていきたいと考えております。
一方の市町村の人権教育推進員ですけれども、この制度は平成15年まで継続ということでお願いをしてあります。15年以降をどうするかということは、当然市町村で十分御検討いただかなければならないわけですが、そうした段階で協議を重ねていきたいと考えております。
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<法期限後の同和対策事業について>bR |
部落差別も本来21世紀に持ち越すべきでない人権問題です。しかし、先ほど申し上げましたように、現実的には差別の実態は厳しいものがあります。
片山知事が鳥取県知事に就任されて以来、これまで余り日の当たらなかったあらゆる分野で行政が動き、県民の関心も高まってきたと思っております。平成8年には人権擁護施策推進法が成立し、確かに21世紀のキーワードは「人権」と言われております。鳥取県においても、先ほど申し上げましたように、同和問題を初め障害者問題、外国人の問題、男女共同参画の問題など、あらゆる分野での人権問題が各部各課で推進され、そして取り組みが展開されているところですけれども、現在のようにばらばらで人権問題に取り組むのでなく、人権にかかわる諸施策については人権局を発展的につくり、そしてそこで網羅的・総合的に推進していくということが、21世紀におけるあらゆる差別を解消し、そして安心して住める鳥取県をつくるという礎になるのではないかと私は思いますが、片山知事の御所見をお伺いしたいと思います。
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●知事答弁 |
同和問題を初めとする人権問題を一元的に施策を推進する局を設けたらどうかということ、これは貴重な御意見でありますので、よく頭にとどめておきます。
といいますのは、私も今、組織・機構というものをいろんな観点から見直しておりますが、そのときの一つの論点は、今まで行政がともすれば供給者側、供給側に立った整理をして組織を編成しております。もしくは中央官庁の整理に従った県の編成をしております。これをこれからの地方分権の時代に、できる限りクライアントといいますか、県民の皆さんといいますか、その視点に立って行政組織を変えることが重要だろうと思っております。
文化観光局をつくりましたのも、観光行政という業行政ではなくて、観光者の視点に立てば何を求めているかという視点に立って発想したものですけれども、そうしますと、人権の問題というのをどうくくればいいのかというのは非常に悩ましい問題だと思います。人権の問題は、例えば同和行政がもちろんその中核をなすものでありますが、障害者の皆さんの人権ですとか、女性の皆さんの人権、在住外国人の皆さんの人権、高齢者の人権、いろんな人権があるわけですけれども、こういうものを一つの人権局としてくくったときに、人権施策は推進しやすくなるという面があると思いますけれども、対象となる皆さん方から果たしてそれがアクセスしやすいかどうか、縁遠くならないかどうか、そういうことも気をつけなればいけないと思います。よく勉強してみたいと思います。
私はかつて、県庁で総務部長をやっておりましたときに、これは全国で珍しいのでありますが、鳥取県の場合には総務部に同和対策課というものがあって、正直言いまして総務部長として仕事を進める上で非常にやりやすかったという面があります。各部にまたがる同和対策事業とか人権の問題を総務部で調整をしながら進めていくというそういう面を今鳥取県では持っておりますので、今のようなやり方と、これをまた解体をして再編するのとどっちがいいのか、これを一つの研究材料として、これから勉強してみたいと思います。 |