平成19年12月定例会一般質問(平成19年12月4日)No.1

<沿岸漁業対策について>

 

 この議場において、第1次産業、中でも農業、林業の窮状を訴え、その対応策については多くの議員諸氏から何度ともなく議論されてきましたが、漁業についての議論は少なく、中でも極めて厳しい環境にある沿岸漁業の振興対策について何点か、お伺いします。
 我が県の沿岸漁業は、刺し網漁業、小型底引網漁業、釣り漁業を主体に営まれていますが、平成7年の経営体数は 1,019客体であったのに対して平成17年は 839客体と17.6%の減、これに伴って、平成7年の漁獲高1万 1,763トン、水揚げ高48億 3,600万円であったものが、平成17年の漁獲高は 7,472トン、水揚げ高は33億 6,100万円と3割から4割近くの減となっております。このように沿岸漁業が衰退してきた背景としては、魚価の低迷や漁場環境の変化など複合的に絡み合ういろいろな問題がありますが、基本的には漁業だけでは生業が成り立たなくなったことにあると思います。
 沿岸漁業を取り巻く窮状を、少しだけ御紹介し、御理解を得たいと思います。
 まず、漁場環境の変化です。沿岸海水温がこの10年間で約 0.5度上昇し、漁場環境並びに魚種に変化が生じ、サワラやタチウオなど南方系の魚種がふえてきていることで、漁法の見直しが余儀なくされています。
 また、原油の高騰に伴い、漁船の燃料であるA重油が、5年前の平成14年7月で38円50銭だったものが、今では79円80銭と倍以上にはね上がり、経営を直撃しています。
 シイラ漁を例にしますと、出漁するときに約 400リットルのA重油を積み込みますが、5年前1万 5,400円の油代が今では3万 1,920円、つまり1回の出漁で油代のあい差である1万 6,520円を余分に水揚げしなければ採算がとれなくなり、自然と操業にも無理が生じてきます。
 また、5トンクラスの漁船を新たに建造すれば 2,500万円、例えばハマチの刺し網漁をするためには1組 150万円の網が5組程度必要と多額の経費がかかるため、新船の建造や最新機器導入等の経営改善のための投資ができないのが現状です。さらに、しけの続く冬場は1カ月も海に出られないこともあるなど、収入も不安定です。
 このように、今日の沿岸漁業は漁業者の努力だけではどうしようもない課題や環境に左右される部分が多くあります。県としても水産課を中心としながら水産試験場、栽培漁業センターなどが連携して努力されているものの、明日の沿岸漁業の姿が見えないのが現実です。
 平井知事は、今日の沿岸漁業をどのように認識されているのか、また今後どのような振興対策を考えておられるのか、お伺いします。


 
●知事答弁

 
 沿岸漁業の現実についてどのように認識し、振興対策をどう考えるかというお尋ねです。
 沿岸漁業について、今、議員の方で御指摘いただいたような幾つかの問題点といいますか、環境の変化があると、私も同じ認識を持っております。一つは、海洋環境が変わってきたということで、地球温暖化の影響かと思われますが、この鳥取県の沿岸を回遊する、そしてそこに生息をする魚類の変化が見られるのは実際、御指摘のとおりだと思います。
 例えば、本来、沖縄とか向こうの方で多くとれたアカイカが、ちょうど今の季節、この鳥取県の沖合の方にやってくるわけです。また、瀬戸内海の名産であったサワラが沿岸漁業で揚がるようになってきているだとか、確かに魚種が変化してきていると思われます。かつて問題になりましたエチゼンクラゲが大量発生したり、今まででは考えられなかったような現象が海で起こっているということです。これは地球環境の問題で、鳥取県一県でこれをどうこうするということはないでしょうが、沿岸漁業についての環境変化を考える上では、大きな要素だと私も認識しております。
 また、経営環境をめぐっても、魚価が低迷している。それから最近の原油高が漁船の燃料になりますので圧迫要因になる。これもイカ釣り漁船などに載せている電灯の電気の動力にもなりますので、そうした意味で、この原油高というのも影響しているというわけです。総じて魚価は低迷していますし、原油高は進んでいる。しかも、最近は1バレル 100ドルを見詰めた展開になっておりますので、こうした厳しさというものが漁業を取り巻く現状であろうかと思います。
 このようなことから、私ども鳥取県の沿岸漁業についてどういう対策を講じたらいいかということですが、魚種が変化してきているわけですから、新しい漁業のやり方が必要ではないか、そんな動きも出てきております。新漁法を取り入れて、アカイカを今までとは違ったとり方でつかまえようとか、あるいはサワラをブランド化できないだろうかとか、そのような展開もこれからは考えられるだろうと思います。
 原油が高くなったことによるいろいろな影響については、私どもがこれまで県として御指導申し上げてきたのは、できるだけ省エネルギーの運行ができないだろうか。例えば不要な漁具を載せたりして重くなるとかですね、そのほかさまざまな工夫をしながら、なるべくエネルギーがかからないような漁船の運行をすることはできないだろうか。このための改修などを国の補助などもあわせて、私どもも対応していく必要があるだろうと思います。
 このほか、魚価の関係で経営が苦しくなればセーフティーネットの貸し付けとか、いろいろと手は考えられるわけですが、さまざまな施策を講じながら、沿岸漁業の今後の発展に向けて県としても協力していく必要があるだろうと考えております。

<沿岸漁業対策について>No.2
 
 先ほど申し上げましたけれども、まさに大変な状況で、しかしながら、栽培漁業センターの皆さんの御努力によりヒラメ、カサゴ、クルマエビ、アワビ、サザエ、イワガキなど、人工種苗の生産、放流体制が確立して、県内各地においては年々漁獲高も上がり、大きな成果を上げてきています。

 漁場環境が年々変化する中で、リスキーな漁船漁業だけに頼るのではなく、やはり放流し育てる漁業には、大きな魅力があると思っております。そういう意味から、栽培漁業センターにはさらなる期待も高まるわけですが、今後どのような育種、育苗を検討しておられるのかお伺いします。
 次に、漁業環境が変化する中で、これまでと異なり、複数の漁法を取り入れなければ漁業としてのなりわいが立たないという極めて厳しい状況下にあります。しかし、新たに漁法の認可を得るには操業区域の問題等複雑な問題もあり、大変難しいのが現状です。何とか意欲のある漁業者には調整可能な範囲で認可がとれるようにすべきであります。新たな漁法に取り組むには、前段でも申し上げましたけれども、さらに漁網など初期的経費が多くかかります。これらの財政的な問題を含め支援策等も検討すべきと思いますけれども、御所見をお伺いします。
 また、近年漁業に志して、県外から研修生として参入され定住されている方が県内には何名かあります。研修中は県の支援策があるわけですが、研修を終えても現実的には魚礁や海流、漁法などの会得に時間がかかるということで、一人前の漁師としてひとり立ちするには大変厳しいのが現状です。研修を終えても、しばらく定住される皆さんには何らかの支援策が必要かと思いますが、御所見をお伺いします。
 沿岸漁業とは直接かかわりないですが、境漁港の問題に触れたいと思います。
 今、境漁港は全国でも有数のマグロが水揚げされている港です。しかし、水揚げ高に比例してお金になっていないのが現実です。境漁港の場合、マグロが水揚げされても身が焼けて商品価値が下がっているのが現状です。
 せっかく水揚げされたマグロを、高付加価値のまま出荷するには船内で早く内臓を取り出すとか、その対応方法はいろいろあろうかと思いますが、具体的にその対応が進んでいないのが現実です。今後、県として考えておられる対応策があればお伺いします。
 私は、商品価値を高めるためには、荷揚げされたマグロを急速冷凍し保存する施設を整備すれば商品価値も随分高くなると思いますけれども、あわせて御所見をお伺いします。 
●知事答弁

 
 育てる漁業には大きな魅力があって、栽培漁業センターがこれからどんな育苗等をやっていくかという御指摘です。
 育てる漁業、現在、例えばスーパー魚礁としてカレイの魚礁をつくろうかとか、あるいはズワイガニもそうですが、そうした取り組みを大規模にやろうという動きもしておりますが、また栽培漁業センターで育苗して、これをお分けするということでも随分な効果はあるだろうと考えております。
 現在取り組んでおりますのは、幾つかありますが、例えばワカメとかイワガキ、これは来年度からいよいよ本格的に実用化して、お分けする計画をしております。このほかにも、キジハタとかあるいはイガイのように、特にキジハタは魚価も張りますし、そうした魚種もできるかどうか試してもらいたいという御要望もいただいています。いろいろと試行錯誤もあるかもしれませんが、そうしたことにも意欲的に取り組んでいきたいと思います。
 現状はどんな育苗などをやっているか、水産局長の方から御答弁申し上げます。
 次に、新たな漁法の認可をとれるようにすべきではないか、また漁網など新漁法には初期的投資もあるので支援策が必要ではないかということです。
 これは、おっしゃるように、先ほども申しましたが、新しい漁法に挑戦したいという漁業者も出てきました。ただ、それはなかなか難しいかもしれない。調整がある程度必要だというものもあります。そういう意味で、できるものからでも、こうした認可をすべきではないかという御指摘なのだろうと思います。例えば、バイガイをとるかごを設置するという漁法があります。これは本県では導入されていないわけですが、これを仮にやった場合には、底引きの網にひっかかるということになります。ですから、そこでどういうふうに調整するか、例えば季節的に調整ができるかどうかとかですね。いろいろと認可のやり方には工夫が必要かもしれません。
 ただ、いろんな御提案をいただいて、それを海区漁業調整委員会などの場できちんと話し合っていただいて、それに基づいて積極的にできる認可はしていくべきだろうと思います。もちろん漁業資源だとか、そうした大局的な観点の判断の必要はありますが、新しい漁法のチャレンジについて、私どもで戸板を立てて門戸を閉ざす必要はないだろうと思っております。
 とりあえず近々、12月7日にも漁業調整委員会がありますので、そうした場に、今、出ているような提案なども諮問といいますか、まずは御相談させていただきながら、その新しい漁法についても考えるきっかけにしていきたいと思います。
 次に、新漁法に初期的投資が必要ではないかということで、これも例えば網を設置するなど、最初はリスキーなところもありますので、そうしたチャレンジを支援するような、ある程度の、余り大きな支援は必要ないかもしれませんが、研究的なものの経費だとか、あるいはその認可に絡む経費だとか、若干の御支援をすることは検討できるかと思います。これは来年度の予算に向けて考えてみたいと思います。
 次に、研修制度ですが、県外からの研修を終えても、しばらく支援することが必要ではないかという御指摘です。
 新規の就業希望者への研修は、本格的には平成12年度ぐらいから順次整備をさせていただきました。例えば、研修生の方に一定の手当を差し上げるだとか、あるいはその後のさまざまな経費も含めて研修経費を3年ぐらいは貸し付けして、就業をきちんとしてもらえれば返還を免除するなどの措置をとってきました。コーチングスタッフになるような漁師さんに対する研修手当というものもこれまでやってきております。大変に好評で、UIJターンのきっかけになっていると私は思います。
 昨日、UIJターンの看板をかけて、私ども窓口を設置させていただきましたけれども、今この漁業の研修にやってこられる方は、大阪とか兵庫とか岡山とか埼玉とか、そのように遠方から来られるのが実情です。やはり鳥取県のイメージと重ねて壮大な海の中で自然と一緒になって仕事をすることに魅力を感じられる方がおられるということだと思います。そういう意味で、この研修制度を大事にして応援体制を整えることは、私は議員と同じ考えです。
 ただ、3年で一応研修期間を切っており、その後のフォローアップをどうするかですけれども、私は当面、例えばベテランの漁師さんとの話し合いの機会をつくるとか、あるいは私どもの県のスタッフなどとの意見交換をきちんとやるとか、新規就業者同士の交流をやるだとか、ソフト的な支援を中心にして、いろいろとレベルアップ、スキルアップを図っていくことが当面可能ではないかと思っております。
 次に、マグロについてです。境港が今、このマグロの漁獲高がどんどんと伸びてきているわけで、これが高付加価値のまま出荷できる対応をとるべきではないか、また急速冷凍、保存がそのためには有効ではないかというお尋ねです。
 平成19年も4万 5,000本ぐらいマグロが揚がっているわけで、大変大きな漁獲になってきました。ですから、私ども鳥取県の新しい顔となるクロマグロが、これから全国に「食のみやこ」としてPRしていく核になり得ると思います。
 境港を中心として、県西部の方々などでマグロの研究会をつくっていただいております。一つの活動としては、それをどうやって食べたらいいか、PRしていったらいいか、新しい食を提供する料理を考案したりというようなグループもありますが、それとあわせて、身焼けを防止するためにどういう手だてができるだろうか、研究させていただいております。現在の研究は、北海道大学だとか下関の水産大学校を初めとして関係機関と一緒になり、鳥取県の方ももちろん地元ですので、水産試験場など、産業技術センターも入って研究させていただいております。現在、その途上で、確たることはまだよくわからないところがあります。ひょっとすると、つかまえるとき、漁をするときの魚のストレスなどが原因かもしれない等、いろいろなことが言われております。ですから、その原因をきちんと見きわめるように、研究はぜひ進めさせていただく必要があると考えております。
 あわせて、今の冷凍保存のことですけれども、マグロの場合だと、冷凍保存する王道を申し上げれば、マイナス60度まできちんと冷凍しないといけないということになります。これは結構な設備投資も必要になりますし、お金もかかります。ただ、6月、7月ぐらいに一気に境港のマグロがおかへ揚がってくるわけで、この時期に年間を通して平準化することができれば、例えば今のようにマグロの値段が上がりつつあるようなときに市場の方へ出していく。その分、利ざやが稼げるかもしれないという期待も膨らむわけで、冷凍保存するということの意味はビジネス的にもあるかもしれないと思われます。 そこで現在、産業技術センターとか地元が協力し合いながら、冷凍保存の仕方についても、研究させていただいております。現実に今やっていることで目標とできればなと思うのは、今の境港にある冷凍の倉庫が使えれば一番いいわけです。そうするとマイナス20度ぐらいということになるわけですが、これはマグロ1匹丸ごと寝かすには設備としては不適切です。ではほかの保存の仕方、例えばマグロの形を変えて保存するようなことができるかどうかとか、今いろいろと具体的に実務的な研究をやっている最中です。そういう状況も見て、県もこうした新しいマグロの活用方法について御協力できるところがあるかどうか検討させていただきたいと思っております。

●安住水産振興局長答弁


 今後の栽培漁業の取り組みについての補足答弁をいたします。
 県では、安定的に資源を確保するためには、つくり育てる漁業、いわゆる栽培漁業ですが、非常に重要と認識しており、現在、漁業者の意見を踏まえて種苗の生産、放流及び育成に関する計画として栽培漁業基本計画を策定しております。この計画は5年ごとに見直しを行い、技術開発の目標等を掲げております。
 現在、漁業者へ有償で配付している種苗は、議員御紹介のとおり6種ございます。来年は今、開発中のワカメ、イワガキの種苗も漁業者に提供できるようにしており、ことし8月に漁業者の方にいろいろな意見を聞きました。今後、バイに期待をしている、あるいはキジハタ、イガイ等もやってほしいというような要望を受けております。このため、県ではバイを早期実用化、あるいはこのキジハタの新たな栽培漁業の対象種としての可能性を今後検討していきたいと考えておりますので、よろしくお願いします。
 

<沿岸漁業対策について>No.3

 マグロの件にしても延々議論されることのないように、早目に、マグロのきちんとした商品価値のもとで出荷できるような対応というものを考えていただきたいと思います。いずれにしても、沿岸漁業は大変な状況で、本当に漁業の皆さんがしっかりなりわいが立つような、そんな政策を検討していただきたいと思います。
●知事答弁

 マグロについては、できるだけ速やかに身焼け対策あるいはその冷凍技術の問題解明について当たってまいりたいと考えております。