平成14年9月定例会代表質問(平成14年9月26日)No.12

<これからの農業について>
 我が国の農業は、戦後、日本再生のために絶えず日陰の立場に甘んじながら、力強く、我慢強く、日本の経済の礎として支えてまいりました。工業国を目指してきた我が国は、多くの農地が工業用地に転用され、さらには農村から多額の教育投資をしながら育ててきた多くの若者を、元気のよい労働者として都会に供給してまいりました。その結果、都会には若者の人口が集中し、農村は荒廃の一途をたどってまいりました。
 さらには、合理的で収益性の高い農業をしようと、山奥の水田、畑まで圃場整備を進めてまいりました。その結果、農家の皆さんは、農機具も大型化になり、農作業自体は軽減され、サンダルで水田や畑に出かけられるようになりましたが、水田は強制的に転作させられ、米価は引き下げられ、さらに米のかわりとなる作物が見つからない中、農家の皆さんは圃場整備の負担金、農道の負担金、農機具の返済金が重くのしかかり、生活どころか、これらの負担金を払うために外に働きに出ざるを得ないようになりました。圃場整備に着手する前に描いた夢のような農業の姿は、圃場整備をするために農家を口説くための口実、つまり絵にかいたもちであり、一体だれのための圃場整備であったのか、まさに失政であると言われても仕方ありません。
 本来なら農地を所有していることが農家にとっては誇れるはずなのに、今の農家にとっては、農地があること自体、つらい問題になっていることがとても残念な実態であると思います。まさにハード中心で歩んできた農政の代表的な弊害ではないでしょうか。耕作放棄地が歯どめもなく増加する現状について、知事の御所見をお伺いします。
●知事答弁
 耕作放棄地の問題でありますが、耕作放棄地がこんなにふえて、本当に何が原因であったのか、何が悪かったのかと嘆いてみてもしようがないわけでありますが、伊藤議員がおっしゃったように、これまでの国が主導してきた農政というものが、基盤整備にしても農家への支援にしても、機械であったりというハード中心であったことの結果、一番肝心な担い手といいますか、人材の育成確保ということに思いがなかなか至らなかったという欠点、これが1つの原因ではないかと私も考えております。その結果、高齢化が進んで、後継者不足が目立つようになって、それと軌を一にして耕作放棄地がふえてきているということだろうと思います。やはり一番の肝心なことは、担い手、人材、そこにこれまでももっと目を向けるべきだったし、これからもおくればせながら目を向けるべきだろうと思います。
<これからの農業について>No.2
  農林水産部が策定作業をしていた鳥取県農業基本構想は、片山知事の紙と鉛筆で農業ができるのかという議会での発言で吹っ飛んでしまいましたが、かわって検討されたのが作物ごとの再生プログラムであります。これはこれで一定の評価はいたしますが、鳥取県農業の5年後は、10年後は、だれがどう描いていくのか。今後も現状対応型の農政で進まれるのか、何か羅針盤のようなものをつくられるのか、知事の御所見をお伺いします。
●知事答弁
 農業の5年後、10年後の姿はだれが描いてくれるのかという御質問でありましたが、私は、国にしても県にしてもそうですが、官庁、役所が一つの産業の将来をこうだといって規定して引っ張っていくというのは、決していい結果を生まないと思います。そういうことを実践した国もあります。ソビエトでは、農業も含めてでありますけれども、コルホーズをつくって国営で農業をやってきたわけであります。中国は人民公社で引っ張ってきて、これも破綻をして、今、改革開放経済になっております。北朝鮮は食糧増産というので、全国土をだんだん畑化政策をやって、その結果が洪水を招いているという悲惨な結果にもなっております。日本も米作、米づくりをずっと国が引っ張ってきて、今日のような状態であります。
 経済とか産業というのは、やっぱり役所は不向きでありまして、基本的には農業も企業でありますから、産業として、一つの企業として市場をにらみ、自己責任でもってどういう経営方針をつくるかというそこが基本にないと、役所のつくった方針にずっと従っていくというやり方では、決してよくないだろうと思います。日本でも、役所に寄り添ってきた業界というのは、今、全部体力が弱まっております。金融しかり、土木建設業しかり、役所と一体となって歩んできた業界というのは決してよくないわけであります。ですから、農業も役所離れということが一つ必要だろうと私は思うのです。自己責任でもって、自分で消費地の動向をにらみ、消費者の選考というもの、好みというものをにらんでつくっていく。つくったら、後は農協に販売を任せるという今までのやり方では決してよくないと思うのです。それは、行政に頼るということも決してよくないと思います。
 私も長いこと行政の内部にいまして、この種のことには不向きであります。経営責任をとるわけでもありませんし。口は出しますけれども経営責任はとらないのでありまして、不向きであります。そういう自覚を行政は持つべきだと私は思っております。
<これからの農業について>No.3
 耕作放棄地が年々増加する中で、やはり農業は多面的機能を有するから見直しをしなければいけない、皆さん、棚田を保存しましょう、近年こんな呼びかけが多くなりました。農業が持つ多面的な機能を多くの皆さんに理解してもらうことは大変意義あることであり、こうした運動を批判するつもりはありませんが、本来の農業のあり方を考えるとするならば、私としては少し違和感を抱いております。農家の皆さんは生活の糧として農業を営んでいるのであって、趣味のための農業ではないことをきちんと整理をしておかなければならないと思います。つまり、農業が生活の糧として、子育てができる収入さえ確保できれば、農地の荒廃や離農はないはずであります。今、農業に一番求められていることは、子育てができる所得の確保であると思います。農家の所得の確保対策について、知事の御所見をお伺いします。
●知事答弁
 農家の所得確保が一番重要ですよというのは、そのとおりだろうと思います。棚田にしてもそうですが、いろんなことが言われますが、結局は農業を担う人たちが本当に農業によってちゃんと生活ができて、子育てができる、自信を持って生活ができるかということ、これが基本だろうと思います。そこに重点を置くべきだろうと思います。もちろんホビー農家とか、趣味でやる農家とか、退職後、年金をもらいながら農業をやる、これも重要でありますから、この方々が農業をやれるようにするという施策も重要でありますけれども、一番はやはり農業を主にしてちゃんと食べていけるかどうかだろうと思います。
 県内には、もちろん農業だけでちゃんと食べている農家はいっぱいあるのであります。私もかつて総務部長のときに、そういう農家を拾ってみようといって、そんなにないのではないかと思ったら、いっぱいあってびっくりしたことがあるのですけれども、それは本当にちゃんと立派にやられております。そういう農家の方がどんどん前に出て、後をついていく、そういうことが望ましいと私は思っております。
 もちろん、そういう恵まれた農家ばかりではなくて、いろんな諸条件、悪い条件がありますから、所得確保が容易でない農家も多いことも事実であります。したがって、いろんな手だてをして、手当てを講じたり施策を展開しているわけであります。その一環として、現在ではいわゆる地域とか作物に着目した新生プランというものをつくって、きめ細かい支援策なども今出しているところであります。当面こうやってできる限り農家の皆さんの所得が向上するように、伊藤議員に言わせれば対症療法的なのでありますけれども、そういうやり方を当面はやっていくことになると思います。
 中山間地の直接支払いも始まったわけでありまして、これも農家の所得確保対策の1つでもあります。こうやって国も県も市町村もみんなで協力しながら、農家の皆さんの所得が上がるようにということを取り組んでいるわけでありまして、当面はこういう協力した努力を続けるしかないのではないかと思います。
<これからの農業について>No.4
 次に、畜産農家がより高い経営が行えるよう、草地等の飼料基盤の開発整備とあわせて畜産等の農業用施設の整備、草地管理用農機具等の導入などを行う畜産基盤再編総合整備事業があります。この畜産基盤再編総合整備事業は、実施主体が鳥取県農業開発公社で、国の補助率が50%という国主導の補助事業制度であります。しかし、事業の内容を見てみると、15ヘクタール以上の草地、飼料畑の造成整備改良が整備条件となっております。国主導の補助事業のため、県としてはどうしようもないかと思いますが、これだけ荒廃農地がふえて対策に困っているときに、あえて15ヘクタール以上の草地、飼料畑の造成がなぜ必要なのでありましょうか。ただで貸すから田畑をつくってくれという農家が多い中、現実としては荒廃農地を飼料畑に転用し、活用することが大切ではないでしょうか。現在の農業事情の中では、あえて飼料畑を造成しても、すぐに荒廃農地になる危険性もあるわけであります。霞が関でつくられた計画なのか知りませんが、畜産農家のための事業ではなく、旧態依然の農政を引きずったままではないでしょうか。補助事業を活用したくても活用しにくい制度であるばかりか、命がけで畜産業を営もうとしている農家に余計な負担を求めるばかりか、税金のむだ遣いを強要しようというものであります。もっと現実に合った活用しやすい補助制度に改められるよう国に働きかけるべきだと思いますが、知事の御所見をお伺いします。
●知事答弁
 畜産基盤再編総合整備事業で、非常にずれた基準でということで、私もこれは全く同感であります。これは、国の方でこういう制度をつくるときに、まず農水省自身がちゃんと現場の実態を的確にとらまえているかどうかということも問題がありますし、それが予算の査定の段階で、財政当局の方の査定になりますと、本当に現場の実態を知らない人たちがずばっと査定をするわけです。したがって、制度はつくったけれども使い勝手が悪い。現実には全然適用できない。無理をして適用すればずれてしまうということが起こるわけで、これも1つの具体的な例だろうと思います。ぜひ補助金を実情に合ったものに変えていただきたいということも言いますけれども、一番の基本はやはりこういう補助制度をやめて、従来補助金として配っていた財源を一般財源として地方に渡すという、これが一番の解決方法だろうと思います。今それが地方分権の中で、財政改革の中で言われていることでありまして、私はぜひこれを推進したいと思います。そうなりますと、自前で、自分のところの判断で、一番実情にふさわしい施策が展開できる。これが本当に地方分権時代の行政を可能にすることだろうと思います。
<これからの農業について>No.5
 農業政策といえば、やれ自給率だ、やれ栽培技術だと議論されておりますけれども、農家は自給率や誇りだけでは生活できないのであります。生活の糧としてきちんと成り立つ農業を確立しない限りは、まだまだ専業農家は減少し、日本の農業は崩壊に近い状態になると心配をいたしております。
 県内の農業を支えているのは現実的には年金をもらっている高齢者であり、農業所得はそんなに多くなくても、何とか生活設計が維持できるというのが現実であります。まず、年金受給者に支えられなくても生活ができる農業を、そのあり方を模索しなければならないと思います。例えば親子5人家族を想定し、子供が大学生、高校生、中学生と教育費に金がかかるときを前提にいたしまして、米作であれ、ナシであれ、ネギであれ、どれだけの面積を栽培し、経営の中身をどうすれば生活として成り立つのか、やはりきちんとしたシミュレーションを描いてみることが大切であろうと思います。
 その1つの手法として、県内にはいろいろな農業試験場、試験研究機関があるわけでありますが、こうしたそれぞれの機関の中に、流通、消費者動向、販売戦略などを研究する経営研究員を配置して、分野別、作物別に戦略を立てる。大変重要なことであろうと思いますが、これについて知事の御所見をお伺いしたいと思います。
●知事答弁
 農業政策といえば、やれ自給率だ、やれ栽培技術だと議論されておりますけれども、農家は自給率や誇りだけでは生活できないのであります。生活の糧としてきちんと成り立つ農業を確立しない限りは、まだまだ専業農家は減少し、日本の農業は崩壊に近い状態になると心配をいたしております。
 県内の農業を支えているのは現実的には年金をもらっている高齢者であり、農業所得はそんなに多くなくても、何とか生活設計が維持できるというのが現実であります。まず、年金受給者に支えられなくても生活ができる農業を、そのあり方を模索しなければならないと思います。例えば親子5人家族を想定し、子供が大学生、高校生、中学生と教育費に金がかかるときを前提にいたしまして、米作であれ、ナシであれ、ネギであれ、どれだけの面積を栽培し、経営の中身をどうすれば生活として成り立つのか、やはりきちんとしたシミュレーションを描いてみることが大切であろうと思います。
 その1つの手法として、県内にはいろいろな農業試験場、試験研究機関があるわけでありますが、こうしたそれぞれの機関の中に、流通、消費者動向、販売戦略などを研究する経営研究員を配置して、分野別、作物別に戦略を立てる。大変重要なことであろうと思いますが、これについて知事の御所見をお伺いしたいと思います。
<これからの農業について>No.6
  次に、農作物の作柄はどうしても天候に左右される面がありまして、仕方のない面もありますが、どの作物においても、一応普及所の皆さんの熱意、さらには農家の皆さんの努力もあって、技術的には確立されていると私は思っております。どちらかといいますと、それぞれの分野においては、技術的には最高のものがつくられるようになったと思っております。
 二十世紀ナシの場合、これまで農家の皆さん、いいナシをつくってください、高く売りますからと、農協の幹部の皆さんはそう言って農家の皆さんを叱咤激励をしてまいりました。ところが、昨年は、玉太りといい糖度といい最高のナシをつくってきました。しかし、市場では一時キロ 200円を切るようなさんざんな結果でありました。つまり、今の経済の中では、これまでの神話が通じなくなっているのです。今こそ根本的に農産物の販売戦略を見直すべきだと思いますけれども、知事の御所見をお伺いしたいと思います。
●知事答弁
 ナシの販売戦略でありますが、これも同じことだと思うのです。やはり栽培農家の皆さんも、いいものをつくるだけではなくて、どこで、だれが、いい値段で買ってくれるかということを常に考えておく必要があると思うのです。ことしいい取り組みだなと思いましたのは、東郷町の若いナシ生産農家の皆さんが、小さな袋をつくられまして、それに幾つかのナシが入るのでありますけれども、その袋に尾崎翠の詩からとりました一節を、二十世紀ナシが出てくるのでありますけれども、その一節をデザインしております。絵もかかれておりまして、柴山泡海さんが絵と文字を巧みに書かれておりますけれども、そういう気のきいた袋に入れて、少ない数のナシを1つのユニットにして販売しようということでありますが、私は非常にいい試みだと思うのです。
 実はそれは、東郷町の生産農家の方が、昨年私と一緒に京都にナシのPRに行ったのであります。その方は御夫婦で来ておられましたけれども、その際に、消費市場、消費者の皆さんを直接見て、そこで自分たちがつくったナシというものをよりエレガントに、より高貴な形で売るにはどうすればいいかということを自分なりに肌で感じられたのだと思うのです。それから帰られてからそういう取り組みをされて、ことし新しい装いで東郷町のナシが市場に出回ることになったのでありますけれども、やっぱり消費地に行って、消費者を見て刺激を受ける、それで自分の生産もそうですし、販売の戦略も考える、これが企業体としての一番の基本だろうと私は思います。
 別に別途、これは北条町のブドウ栽培をされている方に聞いたのでありますけれども、自分たちはそれまではつくって農協を通じて出荷するだけ、それが市場でどういうふうに扱われていたか知らなかった。ところが、これも京都ですけれども、実際に京都生協の販売所に行ってみたときに、消費者の皆さんから忌避されると。それは房から実がポロポロと落ちていたり、他の生産地から出荷されたブドウに比べて見てくれがよくない。これではだめだというので、いろんな改良を加えて、自分たちも売りに行くことによってだんだんと消費者の皆さんに受け入れられるようになった。今では自信を持って自分たちの生産したブドウを出しておりますということをおっしゃっておられまして、私はそのときにやっぱりこれだなと思いました。つくっておられる方が、消費地にどういう形で届けられていて、消費者の皆さんがどういうふうに評価されているのかということを認識しながら、生産の方も気をつける、これが大事だろうと思います。
 ですから、今まで農協任せにしてきたとしても、これからはぜひ農協任せだけにしないで、自分たちも消費地に赴いてみるとか、農協を叱咤激励するとか、組合員の皆さんのつくった農協でありますから、農協自体を改革していくそういうエネルギーを農家の皆さんにはぜひ持っていただかなければいけないと考えております。
<これからの農業について>No.7
  また、海外からたくさんの農産物が輸入をされております。そして、鳥取県の農産物と市場でかなりのものがバッティングをいたしております。例えばシイタケ、ネギ、ラッキョウ、ミニトマトなど数々あります。これだけ農薬の不安が広がる中、特に衛生研究所もきちんとできましたので、輸入農産物の農薬検査をやるべきだと思いますけれども、知事の御所見をお伺いしたいと思います。
●知事答弁
  海外から輸入された農産物の残留農薬の問題でありますが、これは専ら国のいわゆる防疫、疫病を防ぐという意味での防疫の業務であります。国の方でしっかりと輸入食物の検査体制をつくっていただきたい。国家公務員の定数管理がありますから手が回りませんなどというそういう横着なことを言わないで、必要なところにはきちっと人員を配置していくという姿勢が政府には求められると私は思います。したがって、これは国の業務でありますから県がやるというものではありませんが、県の方も念のためといいますか、悉皆というわけではありませんけれども、幾つかの品目について、それを衛生環境研究所で検査をするということは、これからも適宜やっていくべきだろうと思っております。