平成14年9月定例会代表質問(平成14年9月26日)No.6

<負の遺産について>

  とりあえず3点の問題に絞って、負の遺産ということで申し上げましたが、農業、中小企業、医療など、まだまだ社会の随所に負の遺産を残しているのであります。なぜ私があえて「負の遺産」というテーマから代表質問に入ったかといいますと、この改革時期に新たなる一つの時代を切り開くためには、きちんと現状認識をすることが必要であると思うからであります。だれしもこれまで行政の中で、負の遺産をつくろうとしてつくってきたわけではありません。前へ前へとひたすら汗を流すうちに、知らず知らずに負の遺産をつくってきた面が多分にあると思います。ただ、これまでの政治、行政においては、立ちどまって後ろを見ること、反省をすることを余り得意としなかったことに原因があると思います。
 第2次世界大戦においても、我が国は 300万人にも上る犠牲者を出しましたが、戦争責任をきちんと整理することなく、1億総ざんげという形のあやふやな中でお茶を濁したままであります。したがって、現在でもアジア諸外国との外交において大きな支障となっていることも事実であります。次世代の子供たちに暗い影を落としたままであります。終戦直後にきっちり総括さえしていれば、もっと早くアジア諸国との新たなる関係が開けたものと思います。知事としても、負の遺産として思い当たることがあろうかと思いますが、具体的に感じておられることがありましたらお聞かせください。

●知事答弁
 その他、いろんな負の遺産があるはずだけれども、何か感想のようなことはないかということでありますが、いっぱいあると思います。1〜2例を挙げますと、1つは、私は常に申し上げているのでありますが、我が国はどうしてもまだ硬直的な官僚主導型の中央政府の行政が行われている。これはやはり戦前の体制が色濃く残っている分野であるのであります。戦前から戦後にかけて大きないろんな民主的な改革が行われましたけれども、官僚制度はやっぱり牢固として残っているのであります。これは、今の憲法が決めた民主主義の体制の中で幾らでも改革できるのであります。政治が、国政に携わる政治家の皆さんがしっかりとリーダーシップを発揮すれば幾らでも改革できるのでありますが、そこのところがなかなかできていないというそういうもどかしさ、これも負の遺産だろうと私は思います。
 外国との関係で言いますと、伊藤議員は1億総ざんげということをおっしゃられましたけれども、冷静に分析をして、どこが悪かったのか、だれが悪かったのかというそういう歴史認識、歴史評価をしていないのです。みそもくそも合わせて悪かったということでありますから、何がどう悪かったのか、どこをどう改めればいいのかということが全く出てこないわけでありまして、これでは正しい歴史認識につながらない。ですから、自分では何の意識もないのに上辺だけ謝ってみたり、その実、実は傲慢な考え方を内部に秘めていたり、そういうところが外国から見て日本というのはまだ理解しがたい面があるという、そのことが日韓問題でありますとか、日中問題でありますとか、今回の北朝鮮の問題とか、さらには台湾の問題とか、そういうところに随時出てくるということだろうと思うのです。
 やはり私は、日本がやったことは歴史的な事実でありますから、これを客観的に見詰めて、どこが悪かったのか、どこをこう変えていればもっとよかったのかというそういう歴史の検証をする、これもやはり負の遺産をなくすための重要なファクターではないかと思っております。ほかにもいろいろありますけれども、これぐらいにしておきます。
<市町村合併について>

 ようやく7月に入ってから、県下一斉に市町村合併の動きが活発化し、合併問題が新聞に取り上げられない日がないくらいになりました。地方分権のスタートに当たって、地方自治の原則である自己決定、自己責任の体制づくりを考えることは当然のことであり、自治能力の向上と行政サービスの充実を図るために市町村合併の検討がなされることは自然なことであると思います。しかしながら、その進め方が、国の強い要請を受ける形の中で、財政誘導策に乗りかかり合併論が進められていることは、決して分権的な手法でないと私は思います。おしりに火がついたような形の中で議論されている合併論を見てみると、共通して言えるのは、交付税が減り財政がもたない、どこの市町村と合併したらよいのかという枠組みの議論が優先され、ただ合併特例法の財政措置に乗りおくれまいと急いでいるようにしか思えてなりませんが、現在までの県下の合併議論について、知事の感想をお伺いします。

●知事答弁
  市町村の合併論議でありますが、最近いろんな動きが出てきました。これが今後どうなるか、私も注視、注目しているところであります。私、市町村長さんとか関係者の皆さんにいつも申し上げるのですが、国からしりをたたかれて、何かあわてふためいて行動に移るということはやめた方がいいと申し上げております。合併というのは今回国から提起されたことでありますが、一つのいいきっかけでありますからよく考えてくださいと。それは、財政がどうだ、破綻するとかしないとか、どことくっついたら得かとか、合併したら特例債が得られるとか、そういうことではなくて、本当に自分たちの市町村の住民の皆さんにとって、どういうユニット、どういう規模で行政をしたら一番住民本位になるか、住民の皆さんの生活にとって便宜であるか、これを中心に考えてくださいということをお願いしております。
 一部には、伊藤議員がおっしゃったように一定の財政推計をして、もう破綻だ、もうどうしようもないからどこかに頼らざるを得ないというこういう動きがあったり、その財政推計も当てにならないのです。我々だって実は財政推計はできないのです。要素が幾らもあって、来年どうなる、再来年どうなるなどそんな単純にわからないのですけれども、どうもある市町村などは、もうこうなるといってがちっと決めて、何年たったら破綻だとか、神ならぬ身でよくそんなことがわかるなと思うのでありますが、余り当てにならない財政推計に基づいて悲観的になることはないと思うのです。財政では今が一番悪い時期でありますから、一番悪いときに将来のずっと先のことを決めるというのは、余りいい選択ではないと思うのです。いろんな可能性を考えて、どうすれば一番いいのかというのを柔軟に考えていただきたい。
 もう1つは、先ほど言いましたように、合併したら合併特例債でいろんな事業ができますよ、だから大きな合併をしましょうと言っておられる首長さんもおられますけれども、それは私は邪道だと思うのであります。合併はハード事業をやるための手段ではないわけでありまして、むしろ合併というのは私に言わせれば、今、市町村で重要なむしろソフト事業、例えば環境だとか人権だとかITだとか教育だとか文化だとかそういう面で人材がなかなか得られていない、配置がない。そういうのを補うために、もう少し規模を大きくして、必要な人材を配置できるようにする、これが今の合併の1つの大きな課題だろうと私は思うのであります。そうなると、合併というのはハード事業をやるとかというのは、ちょっと邪道なのであります。国がそんな政策を打ち出しておりますから、それにつられる方も出てくるのでありますけれども、決してハード事業に目がくらんで合併に走るというようなことがないようにということを、注意を喚起しております。
 いずれにしても、地方自治でありますから自治の精神、自分たちで自分たちの地域をどうやっていくのかということが基本であります。もう投げ出すようにして、どこかと合併して助けてもらおうというのは自治の精神の放棄であります。そうあってはいけないと思います。
<市町村合併について>No.2
 合併に向けての現在までの市町村の取り組みは、全部とは言いませんけれども、国及び県が示されました合併推進の一般論と、財政特例法を受ける有利さだけの通り一遍の説明で、市町村で行われてきた住民説明会というのは、要するに単なるアリバイづくりにすぎないと言えば言い過ぎかと思いますけれども、私はそういうふうに思っております。全部が全部とは言いませんよ。
 通り一遍の説明会では、住民は何を判断していいのかわからず、逆に言いますと、ただいたずらに混乱を招くということも問題になっているところもあります。まちづくりに不可欠なせめて座標軸、そういうものはきちんと明らかにすることによって、合併議論の論点といいますか、そういう部分ももっともっとかみ合っていき、そして、本当の意見集約ができると思っておりますけれども、現在の自治体といいますか、住民とのコンセンサスを十分に得ることなく、市町村長の意向、さらには議会の意向で合併の議論が出されてしまいそうで、大変危惧をいたしております。現在の状況につきまして、知事の感想をお伺いしたいと思います。
●知事答弁
  市町村合併の問題でありますが、伊藤議員がおっしゃるように、座標軸なき議論といいますか、通り一遍の説明でこの問題が通り過ぎているのではないかというのは、私もやや
そういう印象を持っております。
 本当は、私もかねがね申し上げておりますが、住民の皆さんにとってどういう市町村であるべきか、そのことを最初に点検する必要があるのだろうと思います。それぞれの住民本位に考えて、いい意味で住民本位に考えて、今の町の行政というのはどうであろうか、それは規模の問題もありますし、質の問題もあります。これからの地方分権の時代に、地域に起こった課題をそれぞれ的確にとらまえて、必要な政策を自主的に打っていく、そのための力量を量的・質的に今の町村が備えているかどうかを点検する、それがスタートだろうと思うのです。これが座標軸だと思うのです。それで、今のままでもちゃんとやっていけるというのであれば、それでもいいですし、今のままでは力量が足らないから、もっとふやさなければいけないというときに、周辺の市と合併するか、それとも近隣の町で新たな町をつくっていくかというそういう選択になっていくのだろうと思います。
 そういう段階を経ないで、今のままいくと平成何年には財政が破綻して万歳をするから、さあどうしよう、こうしようとあわてふためいているようなところがないわけではありません。そんなことでは住民の皆さんの本当の気持ちというのは多分出てこないのだろうと思います。もう一回原点に返って、本当に我が町は住民の一人一人の皆さんにとってどうであるかというのを点検、それは役場だけがやるのではなくて、住民の皆さんが真剣に考えるそういう機運づくりをする必要があるだろうと思っております。
<市町村合併について>No.3
 続けてお聞きしますけれども、もし合併議論が成熟していないということであれば、私は、合併議論にもう少し時間をかけるべきであろうというふうに思っております。したがって、期限、現在平成17年3月とかあるわけでありますけれども、県としてできるということは、やっぱり合併特例法の適用期間の延長を働きかけるぐらいではないかと思いますけれども、これについて知事の御所見をお願いしたいと思いますし、法定合併協議会を設立した。しかし、設立後に住民の皆さんとコンセンサスを得る中で、合併をやめたいということも出てくるのではないかと私は思っております。そのことについて、知事の御所見をお伺いしたいと思います。
●知事答弁
 合併論議にもう少し時間をかけるべきではないかというのは、おっしゃる意味はよくわかります。ただ、いわゆる特例法というのを今延長してくれと言っても、多分国は聞く耳を持たないだろうと思います。それは、延長もあり得るよと言ったら、多分区切りがなくなってしまって、先に議論も進まないということになってしまうことは容易に予想できます。けれども、じゃあ今の期限を通り過ごして、以上終わりよと。そこでどれぐらい合併が進むかわかりませんけれども、それがはかばかしくないときに、もう終わったのだから後一切ないよというのは、多分国としては切ないことになるでありましょうから、その段階ではある程度のことがなされるのかなという予想もありますけれども、これは今はわかりません。今の段階では、一種の心理戦争のような面があるのかなと思っております。
 私は、じゃあ何が一番いいのかというのは、何も区切りをつけないでずるずるというのもよくないということもわかりますし、さりとて平成17年の何月だったでしょうか、ある日を区切りにしてオール・オア・ナッシングというのも、政策として変なわけであります。しかも、交付税という手段を使ったときに、ある日より前だったら非常にいいけれども、ある日が済んだら全くだめというそういう仕組みが交付税とセットになるということは、本来矛盾しているのであります。交付税というのは標準的な、一般的な行政をやるために配分する制度であるにもかかわらず、国の政策に合致したものについては 100点、そうでないものは1日おくれても、仮に同じようなことをやっても1日おくれただけで0点という、こんなのは交付税制度には本当はなじまないわけであります。
 ですから、私が一番いいと思いますのは、日にちを決めたなら決めたでいいですけれども、その後もオール・オア・ナッシングにするのではなくて、徐々に徐々に優遇措置などが縮減されていく、それぐらいの柔軟な仕組みがあってもいい。そうすることによって、より議論も深まるし、あわてふためくこともないのではないかと思いますので、こんな主張をこれからしていこうと私自身は思っております。
 合併協議会設立後に合併中止もあり得るかどうか。これは、合併される場合もあるし、引き返す場合もあるのだろうと思います。合併協議会というのは、合併の是非を含めた検討をするわけでありますから、話し合ってみたけれどもどうもぐあいが悪いというのであれば、その方向を変える。合併しないということになるかもしれないし、よそとの組み合わせを考えることになるかもしれないし、1つの準備段階の行為でありますから、これは柔軟に考えていいと思います。