平成16年5月定例会一般質問(平成16年6月10日)No.3

<医療過誤の相談窓口について>

 
 4月、私は医療過誤の疑いで相談を受けました。相談の内容は、ある日の午前9時30分ごろ、50代前半の男性が職場で倒れ、到着した救急車にて救急病院に運ばれ処置を受けましたが、脳梗塞との診断であったため、11時ごろ、家族が近くの脳外科医への転送を救急病院に依頼。しかし、家族に十分な説明のないまま、転送先の搬送車が到着し待機しているのにもかかわらず、結局転送されたのは午後の2時、転送までに2時間以上も空白があったのです。結局その男性は、搬送された病院先で必死の処置にもかかわらず、4日後、亡くなられたのです。

 家族の皆さんがどうしても納得できなかったのは、突然の死の悲しさを含めて、転送先の医師から、もう少し措置が早かったらという言葉でした。つまり、もう少し早く転送されていたなら、ひょっとして助かっていたかもしれないという期待感からでした。そこで、相談を受けた私ができることといえば、カルテの情報公開とインフォームド・コンセントを求められることを助言することだけでした。

 最終結論としては、救急病院の責任的立場にある人が、転送がおくれた病院側のミスと事実を認め、遺族にきちんとした説明と丁寧な謝罪をなされたことから納得され、告訴という形にはなりませんでした。しかし、私は、このたびの事例を通して貴重な勉強をさせていただきました。つまり、医師同士でカルテを見て医療過誤の疑いがたとえわかっていても、決して指摘することはないということです。何人かの医師に直接聞きましたが、同じ答えでした。

 先ほど遺族は納得されたと言いましたが、納得するように努力されているのが現実であり、事実です。素人がカルテを見てもわかるわけでもなく、かといって多額のお金のかかる弁護士に即相談するのも、将来の生活を考えるとつらい。また、弁護士も専門的知識を有する弁護士でなければ裁判での闘争が困難など、現実的に医療過誤を裁判で争うには大きなリスクもあり、患者や遺族にとっては厳しい現状でもあるのです。

 県としても、本庁と各保健所内に医療相談支援センターを開設し、医療に関する県民の相談に当たられているものの、こうした医療過誤までは業務として対応できないのが現実です。本来、医療の専門的知識を有するNPO等が県内にあれば、こうした問題は解決されるでしょうが、こうしたNPO等が存在しない県内にあっては、患者や遺族が相談できる公的機関が県内に1カ所あってもいいのではないかと思うのですが、知事の御所見をお伺いします。

●知事答弁

 
 医療過誤の相談窓口をということですが、医療過誤問題というのが本県だけではなくて全国的にいろいろ起こっているわけで、私は、まずは医療機関がそれぞれみずからの説明責任を果たすために、きちっとした相談窓口を設けて、そして患者の皆さんからのクレーム等に対してはちゃんと対応する。納得をしていただける。ミスがあるならミスと認めるということが可能になるような窓口の体制をつくるべきだと。窓口だけではありませんが、ちゃんとした説明責任を果たすための体制を設けるべきだと思います。県としても、そういうことをお願いしているところです。その上で、まだトラブルが解消しないということになりましたら、いずれにしても司法の場で解決をするということになる。これが我が国のトラブル解消のルールだと思います。

 その際に、医療過誤問題の専門家がなかなかいない、特に法曹の世界にそれがいないという現状が今あると思いますけれども、しかし、基本的にはこのルールにのっとってトラブルを解消せざるを得ないのではないかと思います。

 裁判は手間もかかるしいろいろあるので、裁判ではなくて、行政機関が準司法的機関といいましょうか、そういうトラブル、紛争を解決する裁判所にかわるような機能をという御提言で、意味合いは私もよくわかるのですけれども、裁判でもなかなか難しい状況があるという分野において、行政が裁判所にかわって円滑にというのは現実にはなかなか無理です。行政でやろうと思いましても、やっぱりそこには専門の弁護士とか専門家が必要になってくるだろう。そうでなければ公正で納得のいく解決には至らないと思うのです。

 ですから、むしろ私は、本筋である、王道である司法の機能が円滑に運用されるようなそういう取り組みをした方がいいのではないかと思います。今はちょうど司法改革が取りざたされている時期で、そうでなくても不足している法曹をこれからふやそうということで、法科大学院もことしの春からスタートをしたわけです。質のいい法曹がたくさん供給されるということがまず必要だろうと思います。

 これだけ複雑化した社会ですから、それぞれの分野ごとに専門の法曹もこれから育つと思います。大都市に行きますと、弁護士の中に医療過誤訴訟専門の方も随分育っております。地方都市ではまだなかなか難しいのですけれども。いずれそういう法曹の専門家ということも図っていかなければいけない。これも司法改革の1つの課題だろうと思っております。それが正論だろうと思います。

 ただ、現実に、いろんな悩みとか不満とかを抱えておられる方が多いということも事実です。中にはちょっとした行き違いとか誤解とかそういうものもありますし、コミュニケーション不足というものもあるようです。そのレベルのことでしたら、行政が相談窓口を設けて相手とのコミュニケーションをとるような手当てをするということは可能ですので、それを現状ではやっているわけです。

 医療過誤の法律問題、事実関係をきちっと把握して解決するというのは、期待していただいてもなかなか難しいのではないかと思います。むしろ行き違いを取り去るとかコミュニケーションを円滑にするとかそういう機能を果たしていきたいと思っております。それが伊藤議員がお触れになられました医療相談支援センターということで、県が設置・運営をしているわけです。

 以上のようなことですが、医療相談支援センターの現状等も含めて、福祉保健部長の方から補足の答弁をしたいと思います。

●福祉保健部長答弁
  
 県の医療相談の窓口については、昨年8月に開設をしているところで、ことしの4月までに 100件を超える御相談をいただいております。その多くは、職員の接遇に関する問題であるとか、あるいは治療内容等にかかわる疑問、そういった御質問です。

 治療の内容であるとか治療方針に関する疑義といったことについては、主治医ではない別の医師の診察を受ける、いわゆるセカンドオピニオンという制度もありますので、そういった利用の仕方もあるわけですが、御質問にありましたような既にお亡くなりになっておられる場合には、そういったこともできないということになろうかと思います。

 県の医療相談支援センターでも、昨年、数は少ないですけれども医療事故の御相談も受けております。ただ、知事も申しましたけれども、医療過誤であるかどうかというのは、事実関係の把握が県ではできません。技術的に治療内容がよかったかという是非の判断もそういう意味でもできないということでございますので、医療過誤の判断はできないと。ただ、しっかりした説明を受ける、納得のいくまで説明をしていただく、そういう意味での医療機関と患者さんとの仲介というようなことは、県の方でもさせていただいているという現状です。

 ただ、それでもどうしても納得をされないというケースもございます。その場合には、県の弁護士会がつくっておられます法律相談センターへの御紹介というのをさせていただきました。さらに、国の方といいますか、全国的には弁護士さん方で組織しておられます医療事故情報センターというものもできているようです。そういったところも御紹介させていただくという対応もしたいと思っております。

 県としても、医療相談の窓口で対応できることは、力いっぱいやっていきたいと思っております。