<自由貿易への県の取り組みと対応について> |
6月定例県議会で、研究留保としていたTPPへの参加に向けた協議を中止することを求める陳情の審議が今議会の課題として残っていますが、その審議の資料として県から提出された環太平洋連携協定、TPP参加による鳥取県農林水産業への影響試算額についてです。
国の試算と同様の条件で試算されたものですが、直ちに関税を撤廃し、何らの対策を講じない場合を想定した中でその積算根拠として提示されたもので、本県の農林水産業としては349億円程度の生産額が減少するというものです。一昨年11月の試算ですが、よく見てみると、米の農業生産額が160億円であるのに対して、TPPに加盟したら150億円もの損失とあります。戸別所得補償制度ができ、当然米の販売収入も想定される中で、この積算には大きな疑問を持ちます。私自身、このような現実離れした数字があたかも事実であるかのように公表されているのは、いかがなものかと思います。もっと中身を吟味したものを公表すべきと思いますが、知事の所見をお伺いします。
一方、県内の経済効果については、積算基礎の例がないことから全く公表されていません。私たちは提出されている陳情について判断するのに、資料が乏しい中、悩ましい判断を下さなければならないのが実情です。経済的効果の算出ができないとするなら、不確かな積算だけの農林水産業への影響額だけを公表するのは違和感を持ちます。改めて吟味し直すか、不確かな数値しか公表できないとするなら、あえて公表しないほうがよいと思います。知事の所見をお伺いします。
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●知事答弁 |
詳細については未来づくり推進局長からお答えしたいと思いますが、今回、疑問もあるということですが、私どもとして、ほかに、ではどういうような影響の試算があるかというとき、国のほうから、こうやって影響は出ますよというものが十分に示されていません。私どもも非常に困ったわけですが、片方で、JAも含めて影響はどうなのだと、こういうようなことだとか、いろいろな動きが出てくるわけで、そういう中で、経緯から言うと、農林水産省がこういうような試算の額ですよというのを示されました。その考え方も示されました。方程式ですので、そこに入れていけば数字は出るという代物でした。 ですから、我々としても、これが絶対のものということではなく、農林水産省の試算をそのまま当てはめればこうなるということで私どもとしても公にさせていただいたということです。ただ、それ以上のものでも以下のものでもありませんので、これが絶対的なものだとは思っていません。むしろ国のほうで、どういうことが地域社会に影響を与えるのか、経済に影響を与えるのかを指し示すような、そういう材料を我々としてはいただきたいと思っていますし、そういうものがいただければ、今回の農水省の試算に基づくということではなく、またこういうようなもっと確度の高いというか、全体性のある指標が示されたので、それに基づいて計算し直しましたということで、改めて世の中に提供させていただければと思います。
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●田中未来づくり推進局長答弁 |
TPPの交渉参加については、国民生活なり国内産業に与える影響が非常に広範であると考えています。そうした影響が非常に甚大であるということから、これまでも県としてできる限りの情報提供に努めてきたところです。
本県の基幹産業でもある農林水産業分野について、特に先ほど知事からの答弁もありましたように、国から十分な情報が示されていない中ですが、JAグループ等からの要望もあり、農林水産省のほうが示した試算額に基づいて、県として試算公表に踏み切ったものです。
一方、経済的効果の中の製造業を中心とした経済への影響という部分ですが、これについては、本県の県内の製造業は、下請で中小企業が多いということで、最終的な輸出製品となる最終製品として、どのような形でその品目、額につながっていくのかということがなかなか特定できないこと、そしてTPPは24の分野がありますが、知的財産、金融、投資、労働、政府調達などなど、経済活動への影響を及ぼす項目について、正直政府からほとんど情報提供あるいは交渉状況の公表ということがなされていないといった状況で、試算をするに当たって、余りにも不確定、不明な要素が多いということで、これまで試算公表を行ってきていないという状況です。
今後、国のほうで、知事が申し上げたように、非常に影響が大きいということで、きちんと試算ができるような情報提供をいただければ、また速やかな計算をした上で提供し、議論する環境を整えていきたいと思います。
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<自由貿易への県の取り組みと対応について>2 |
私も農業を営んでおり、聖域なき関税撤廃を目指すTPPへの参加については、やや腰が引けている論者の一人です。しかし、県民の皆さんにひとしく白紙の中から議論をしていただくためには、私はやっぱり議論を惑わすような一方的な数値を公表するのは疑問に感じます。農業団体が数値を出せ出せと言われたから出したのですよと。経済団体が言わないから出さないのですよと。経済団体が言えば出すのですか。出す根拠がないでしょう。一方的な数字だけを出すのですかと。やはり公平な議論の場をつくるためには、まずメリットとデメリットを出す。公平な数値をきちんと公表するというのが前提ですし、公平な議論を導くことが行政の責任であると思っています。ぜひとも一方的な臆測だけの資料の提出は避けて、しっかりとした資料の中で議論ができる環境づくりを知事にはお願いしたいし、努力をしていただきたいと思いますが、知事の所見をお伺いしたいと思います。
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●知事答弁 |
経済影響の数値のことですが、農業関係で今回このような数字を出させていただいた考え方の詳細は農林水産部長から申し上げたいと思いますが、別に何か議論を弱めようとして提供したわけではありません。それがただ、見方によっては一方的な主張材料になっているのではないかという点もあるのかもしれません。私ども、もちろん政府機関である農水省が出した方程式を使っていますので、当然ながら中立的なものだという前提で出させていただいていることは御理解いただきたいと思います。
ただ、これからTPPの議論はなお一層深まってくると思います。公平にメリット、デメリット両方の議論をしていかなければならないという趣旨での御質問だと思います。その意味では、私どもは、公正を期すべき県庁という中立的立場の行政機関ですので、できる限り精密な材料に基づいた試算を今後は提供していくことを考えていきたいと思います。ただ、その前提として、国のほうでも十分な資料をぜひ提供していただきたい。これはこれまでも国に対して訴えかけてきているところで、ぜひとも政府のほうでそうした配慮をしながら、本当の意味で国民的なTPPに関する議論を起こしていただく必要があると認識しています。
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●西山農林水産部長答弁 |
知事が説明をしましたように、県としてもTPP参加についての議論が行われる中で、できる限り情報提供に努めるということが大切であると考えて、当時、農林水産省がその試算の考え方も含めて公表したので、それに基づき、県内農林水産業への影響額を試算公表したものです。先ほどもありましたように、これが絶対的なものであるというふうには考えておりません。
国のほうは、一昨年の試算をして以降、新たな影響額を示しておりません。県のほうとしても、戸別所得補償等の新しい対策の中で、影響額を吟味する要素はあるとは思いますが、そういう全体的な前提等も含めて、国のほうが新たなものを出していないということから、これ以上精査をするということは考えていません。
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<自由貿易への県の取り組みと対応について>3 |
これまで知事は、TPPに加盟するとかしないとかという議論において、この議場でも貿易の自由化は避けられないと。年々進むと答弁されてきました。間違いないですね。それなら、声高にTPP反対、反対と言っても私は何も解決しないと思うのです。本当に大局的な観点から、農業を含めた第1次産業をいずれ来る貿易自由化の波の中、どう生き残りをかけていくのかという絵を描く、羅針盤をつくるという作業が必要になってくるのではないかと思います。そうしないと、まさに第1次産業の農家や漁業者、林業の皆さんの生活を守っていくということはできないと思うのです。ぜひともそういう部分を含めて、知事の所見をお伺いしたいと思います。
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●知事答弁 |
私が繰り返しこの議場で申し上げていますのは、情報が明らかになっていないということ、それから農業対策、農業者が非常に大きな影響を受けると言われていますが、TPPが導入されるのなら、こういうことで手を打ちますよというものがいつまでたっても国のほうから出てこない。それがパッケージで出てこないものですから、どうしても国民の議論が前へ進まないところがあると思うのです。今の経済状況に鑑みて、TPPについてしっかりとした国民の議論を経て前へ進めようという気持ちがもし政府にあるのなら、まずはそこのところをしっかりと出していただく必要があると思います。それで、また鳥取県の中でも、議員がおっしゃるような公平な議論というものが初めて起こるのだろうと思います。
私どもとしては、政府のほうに、情報の開示だとか、農業政策を含めた慎重な検討をお願いしているのはその辺の理由によるもので、今後ともこの問題について、政府できちんとした対応を求めていきたいと思います。
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<自由貿易への県の取り組みと対応について>4 |
国の指針を待つのではなく、鳥取県としてもどうやったら一番被害の大きな農業を守れるのか。例えばその打開策として、鳥取県はどういう政策を国に求めていくのか、そういうものを研究してほしいということなのです。例えばもっと輸出を進めてくれとか、木材なら木材を例えばもっと海外に出すとか、そういう検討を鳥取県でもしていただいて、その政策要望を国に上げていく。今の状況で国を待っていても、私はなかなかできないと思うのです。やっぱりそういう議論を私は県にも始めていただきたいということを先ほど要望したわけです。
次に、WTOを補完する形でFTAやEPAがあるわけです。そのEPAやFTA締結国や交渉国はアジア中心であり、いち早くEUやアメリカ、南米などと積極的に交渉してきた韓国は、今まさに物づくりで世界を制覇しようとする勢いです。ところが、我が国は、それに追い打ちをかけるような円高が高どまりして、我が国の物づくり産業の多くは国内での生産を縮小し、海外にその拠点をどんどん移しています。
したがって、その影響が県内企業にも次々と波及し、県内事業所の縮小、撤退がここ1〜2年で顕著になっています。さらに、このような影響が続くものと私は大変危惧しています。県としても、新たな企業誘致を図る一方で、大量の雇用の場が失われているのが実態だと思います。私は、やっぱりこのことをもっともっと県民の皆さんと情報を共有して、本当にどうすればいいのかという公平な議論をすべきだと思っています。そういう意味で、知事に今後の対応策と県民との情報共有のあり方についてお伺いしたいと思います。
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●知事答弁 |
農業政策のことですが、これはかなり大きな産業構造の転換で、そういうものを国としても認識していただく必要があると思います。例えば韓国では、TPPではないですが1兆5,000億ほどのアメリカとのFTAの対策経費を農業関係でやりました。ただ、それも十分ではないという世論が韓国内で結構強くあります。フランスだとかそうしたところでやっているような、日本でも始めた所得補償制度のような仕組みを仮に導入して、それでこのTPPをやろうと思うと、やっぱり2兆円とかそうした規模でのお金になると。ただ、そこらをやるかどうかということで、国もやっぱり示す必要があると思います。
また、それ以外にも、我々のほうでもできることはやっていくべきだと思います。例えば、畜産関係でのブランド化を目指そうと。牛乳などもアイスクリームだとか、こういうものが出ていっていますし、最近では、ロールケーキとかいろいろな製品もできていますが、中には酪農関係で大変なヒット商品になっているものもあります。また、畜産では、このたび和牛の全国共進会が開かれます。小谷茂議員も所有者としてユニホームを着て出られるわけですが、こういうところで鳥取県のオレイン55を初めとした肉質のいい、脂の質もいい、そういうすばらしい牛のPRができるかもしれません。このようなことをいろいろやって、今非常に競争に弱いのではないかと言われている分野を、ブランド力アップでのてこ入れなど、できることはいっぱいあると思います。県としても先取りをしながらやり始めていく必要があると思いますし、国に対しても求めていきたいと思います。
また、商工関係での影響もあるということですが、昨日もNHKの「クローズアップ現代」で、液晶王国に陰りが出てきたというキュメンタリーをやっていました。シャープがまず出てきました。シャープのこれからの技術で、王国復活をかけていくというのはIGZOというパネルなのです。このIGZOというパネルがテレビに出てきて、びっくりしましたが、それは実は鳥取県の米子シャープがやっているものです。そういう意味で、生き残りをかけて、今ぎりぎりのところで工場が勝負をかけているというのが画面を通して暗黙に伝わってきました。
また、よく知った顔の人も急に出てきました。有賀さんという方なのですが、エプソンからソニーに移られて、エプソンが三洋から液晶工場を買収したときに社長としてこちらのほうに来られた有賀さんが、今はジャパンディスプレイという、東芝などと合併してつくられた会社の役員として画面に登場してきました。今、非常に急速なスピードで世界の市場が展開していく中で、即座にお客様のニーズに応えるようにしていかなければ、大型液晶とあわせて中小型液晶も市場マーケットを失ってしまうと、そういう危機感が画面から伝わってきました。実は、鳥取県に立地している液晶関係は、そうした中小型液晶であり、本当に今ぎりぎりのところで勝負をせざるを得ないという状況です。
ですから、TPPの議論というのも、雇用と直結して大きな影響を片方では私どものところにももたらし得るものです。企業の中にもいろいろな御意見がありまして、これからまたTPPの議論が進んでくると思いますが、議員がおっしゃるように、公平な議論というのをこれからもつくり上げられるように、我々も努力をしていきたいと思います。
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<自由貿易への県の取り組みと対応について>5 |
私自身、現実的にはTPP参加というのはますます非常に厳しくなったかなと見ています。カナダとアメリカが参加を表明しました。それから、アメリカでは大統領選を控え、活発な議論が行われており、自動車産業界はこぞって日本の参入を反対しています。ロムニー候補は真っ向から反対論者です。カナダとメキシコが参加したことで、アメリカにすれば、大体参加国ができたということではないかと思いますが、いずれにしてもこれからの交渉のあり方については、私も見守っていかなければならないと思っています。
ただ、やはり私は、昨日の議論もそうだったのですが、TPP反対、しかし日立金属、三洋と雇用が大量に失われている。知事、何とかしろという短絡的な議論では済まないと思うのです。本当に我々が共有しないと、まさに経済は連動しているのです、見えないところで。それは農業も同じことなのです。そこのところをしっかりと我々が議論できる場を県にはつくっていただきたい。それをお願いしたいと思います。
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