≪随筆≫本稿は鳥取県東部医師会報No.410号の48-51頁(2014年3月)に掲載済

パリに魅せられて (4) オペラ座ガルニエ宮に驚嘆

◇ パリ・オペラ座に関心を抱くようになった誘因はいくつかあった。
 直接的にはミュージカル【オペラ座の怪人】がある。開演前、舞台に緞帳は無く、額縁部分を含めて、黒のドレープで覆われ、薄暗い。開演すると、薄暗い中、わずかの灯りでオークションが始まり、舞台で用いられた小道具等が競売にかけられる。さらに、“オペラ座の怪人事件”で、怪人が天井から落下させたシャンデリアも競売にかかる。薄暗い舞台後方上部に居るオークショナーが「・・・元通りに修理され、灯りも点きます。コチラです!」と案内すると、舞台中央前方にあった固まりのドレープが外れ始め、現代のモーツァルトとも称せられるアンドルー・ロイド・ウェバーの重厚な序曲が鳴り響く。と共に、きらびやかに点灯したシャンデリアが天井に上がり始め、同時的に各所のドレープが除かれる。圧巻の一つは、舞台の上方・両側の額縁部分であり、金色の彫像が目に飛び込むことになる。そして、暗かった舞台は一変し、時が遡って、劇中オペラ【ハンニバル】のハイライトシーンが始まる・・・。

◇ 要するに、ミュージカル【オペラ座の怪人】の舞台は、パリ・オペラ座ガルニエ宮を模して造られていることが、現地に行くと実体験できる。ミュージカルの舞台は、いわば予備知識的な体験だったと感じ得、想像を超えた本物の華麗・豪華さ・凄まじさに驚嘆することになる。

◇ ディズニー・アニメだが、ミュージカル〔ノートルダムの鐘〕はビデオを購入している。理由は劇団四季の精鋭が吹き替えを担当し、語り、歌っていることにある。物語のキーワードは、ノートルダム大聖堂、パリの街、ジプシー、反体制勢力の秘密基地が地下にあることなどで、【オペラ座の怪人】でも怪人の隠れ家は人知れぬ深い地下にある。両作品で、パリの地下空洞や水路に関心を抱いた。パリ市街が石灰岩の岩盤の上にあり、日本にも石灰岩地方には秋芳洞・井倉洞など地下空間が広がっており、合点したことを思い起こす。
ガルニエ宮の華麗な大階段(左)と輝くシャンデリア(中)、仰ぎ見ると豪華な天井画(右)
◇ 現実のパリ・オペラ座・ガルニエ宮は、NHKが放映したドキュメント番組で見たが、地下には水路があり、舞台の動力源としても水を活用しているとあった。
 既述の番組で案内されていたが、1875年に完成したパリ中心部にあるオペラ座は、今日では設計者に敬意を表して、その名を冠し、ガルニエ宮と称されている。対比して、革命200年後の1989年に革命記念の地であるバスティーユ地区に、現代的な大型の歌劇場が完成しており、どちらも国立のパリ・オペラ座だが、後者はオペラ・バスティーユとして定着している。

◇ 両オペラ座は、ガルニエ宮がバレエ主体、後者が歌劇主体と機能分担しており、実体験も然りだった。
 バレエを見るのは彼女に主体があり、小生は生演奏されるパリ・オペラ座管弦楽団の演奏に重きを置いたことで、上方ボックス席中央最前列を購入した。幸い、音楽は、チャイコフスキー、ストラビンスキーとプロコフィエフの楽曲が用いられており、自身も堪能し得た。

◇ オペラ・ベスティーユでの歌劇は、幸い、自身が好むモーツァルト【フィガロの結婚】で、これまた3階中央最前列席を指定購入出来た。偶然、ミラノ・スカラ座公演であって、歌手陣、演奏は申し分なかった
 バスティーユは大型の歌劇場兼演奏会場で、「どの座席からも舞台が見易い」との評の通りだったが、西欧への憧れを抱く小生にしてみれば、馬蹄形のガルニエ宮に愛着を感じる。ウィーン国立歌劇場然りだが、客席が馬蹄形の場合、ボックス席(ロジェ)の2列目からは舞台が見辛い。ウィーン国立歌劇場での体験を踏まえると、舞台に近いロジェの場合、足台の付いた高めの座面椅子に座していると舞台はほぼ見えない。足台に立ち上がり、天井に手を置き、前列のお客の迷惑にならないように覗きこんでも、舞台が半分も見えないことにもなる。が、このことを承知しておれば、雰囲気は抜群で、聴くにも困らず、非常に安価(11〜13ユーロ)である。
日本では体験し得ない、筆舌に尽くし難いほどの煌びやかな大空間 〜 宮殿と見間違えるほどの2階ロビーホールにため息交じりに見入ってしまった。 ミミュージカル【オペラ座の怪人】で馴染み(?)の豪華な天井シャンデリア(上)。舞台額縁部分を含め、全周を飾る彫刻群(中)。馬蹄形の客席と舞台の緞帳・オーケストラピット(下)
終演後にほてり感を抱きつつ撮影したガルニエ宮の正面:屋根に輝く一対の金色の彫像(上)、上部の彫像と著名な音楽家の胸像(中)
◇ 今回、初めて体験研修したパリ・オペラ座(ガルニエ宮とバスティーユ)のチケットは同HPで無料会員登録し、発売当日に、舞台正面側のボックス席の前列席を狙った。同HPは指定した座席からの舞台が示される方式であり、分かり易い。
 チケット代金は、ガルニエ宮 92ユーロ、バスティーユ 115ユーロであり、日本での来日公演ならどちらも最高価格席相当#と判るのでと、信じ難いほど安価だったと言える。(#:両公演で10万円位〜往復の航空運賃が浮く計算になる。相変わらずの学生感覚的算数・・・)



◇ 話を戻そう。バレエ公演自体への期待も大きかったが、ガルニエ宮に一歩踏み入れた途端に圧倒されることになった。ミュージカル【オペラ座の怪人】では、第二幕冒頭の仮面舞踏会シーンで、舞台に大階段が設けられている。この大階段の意味を知らないで観劇を続けていたが、ガルニエ宮に入った途端に理解が出来た。

◇ 玄関を数段上がり、大きな空間に入ると、シャンデリアが煌々と輝く中、大階段になり、途中踊り場で左右に分かれて高い2階に上がることになる。この構造を模したミュージカルの舞台だった。なお、2005年のミュージカル映画【オペラ座の怪人】ではより一層ガルニエ宮を模した階段が設定されている。

◇ ガルニエ宮は、内部の有料ツアーもあるが、出来れば時間を確保して、安価な席でも良いので(〜本音は日本と比べて、相対的に安価なので、良席で!)舞台を楽しむと共に、ガルニエ宮自体の体験をお勧めしたい。

◇ ところで、現地では1階席を“平土間 stalls(英)”と呼称するが、その理由を、自身、理解していなかった。合点出来たのは映画〔Shakespeare in Love(恋におちたシェイクスピア)〕を見た際だった。クライマックスにおいて、16世紀ロンドンの劇場(カーテン座)で〔ロミオとジュリエット〕の初演があり、(お忍びで女王も見ている) が、この劇場の1階は整地しただけの土間で、庶民が立って観劇していた。サークルと称する2階以上が高価な賓客が座す場所で、馬蹄形劇場においては、この伝統が今でもロンドンを始め、西欧に残っているのを実体験することになる。

◇ [:1998年アカデミー賞作品賞・監督賞・脚本賞・音楽賞・美術賞・主演女優賞など7部門を受賞しており、自身には大切な作品の一つ]

◇ 西欧に行くと、体の大きいガイジンさんが多い。仮に、平土間に座すと、小生が座して背伸びすれば何とかなろうが、身長の低い彼女は前列のお客の背を見るに留まりかねない。また、歌劇場管弦楽団の演奏を楽しみたい小生は、音が上がる特性から、上部席を好む。よって、座席価格帯と場所を見ながら、購入を企てることになる。団体さん・ツアー客は、添乗員が管理し易い1階席・平土間となりましょうが・・・。

◇ 初体験のガルニエ宮であり、開演前30分近くには劇場に入り内を探索し得た。大階段を2階に上がり、正面側に周って、息を呑んだ。シャンデリアで輝く大階段にも驚嘆したが、その比ではない大空間に遭遇することになった。宮殿の豪華な大空間に例えることが出来るオペラ座の環境に度肝を抜かれ、しばし身を委ねた。
オペラ・バレエの名場面を描いている客席丸天井を彩るシャガールの絵は素晴らしい

◇ 自席に入るドアを確認し、ボックスの中に入って、またもや感嘆することになった。それは、購入し得た自席が幸いだったのは、土間と天井の中間域にある正面にあり、天井シャンデリアの付け根部分に描かれたシャガールの天井絵が近かったこと、壁画の素晴らしさを十二分に体感し得たことだった。

◇ 舞台が終わり、外に出て火照りを冷ます間、ライトアップされたガルニエ宮を撮った。屋根には一対の金色の天使像、建物の上部には精緻な彫像と著名音楽家の胸像があり、しばし見入りながら界隈を散策した。
(2014年2月6日)
≪随筆≫ パリに魅せられて 
(1)モンマルトルで奔放に (2)サン・マルタン運河で遊ぶ (3)彼女の思惑とプチ・トリアノン
(4)オペラ座ガルニエ宮に驚嘆 (5)天晴れプチ・パレ (6)ラパン・アジルで歌う
姉妹編 《随筆》 [ウィーンを愛して